心血管画像学テキスト 発売中
ブックレット・シリーズ 3
IVRに伴う放射線皮膚障害の防止に関するガイドライン
− Q&Aと解説 −
《内容》
 医療放射線防護連絡協議会では、2004年6月に作成した「IVRに伴う放射線皮膚障害の防止に関するガイドライン」と皮膚線量を把握するための「IVRにおける患者線量の測定マニュアル」を有効に活用するために、具体的な内容を解説したブックレットを上梓した。
 冊子には、皮膚障害事例と治療方法も資料として掲載しており、IVRに携わる医師・診療放射線技師・すべてのスタッフが携帯すべき一冊といえる。
《目次》
【第1章】◇IVRに伴う放射線皮膚障害の防止に関するガイドライン◇IVRにおける患者皮膚線量の測定マニュアル 【第2章 Q&Aと解説】1.ガイドラインの考え方 2.マニュアルによる測定法 3.放射線の性質 4.装置の管理 5.患者さんの被ばく線量低減法 6.IVRにおける一般的な患者被ばく線量測定法 7.従事者の被ばく 8.インフォームドコンセント 9.その他 【資料】IVRに伴う放射線皮膚障害事例
好評発売中 (2004年9月15日発行)   1,000円 +送料

医療放射線防護連絡協議会 ブックレット・シリーズ 3

IVRに伴う放射線皮膚障害の防止に関するガイドライン -Q&Aと解説-


 本ブックレットシリーズ3は、医療放射線防護連絡協議会が作成した「IVRに伴う放射線皮膚障害の防止に関するガイドライン」を受けて、具体的な事項がQ&Aの形式でまとめられている。内容は、IVRに携わる内科医や看護師および臨床工学技士など、普段放射線に関する情報が伝わることの少ない方々に判りやすいものとなっている。

注文方法はこちら



ブックレット作成ワーキンググループ(五十音順)

 新井 敏子  社会保険 群馬中央総合病院 放射線科
 粟井 一夫  国立循環器病センター 放射線診療部
 加藤 英幸  千葉大学医学部附属病院 放射線部
 菊地  透  自治医科大学RIセンター
 鈴木 昇一  藤田保健衛生大学 衛生学部
 塚本 篤子  NTT東日本関東病院 放射線部
 富樫 厚彦  新潟大学医学部 保健学科
 林田 昭彦  国立循環器病センター 放射線診療部
 松下 淳一  日本大学医学部附属板橋病院 中央放射線部
 水谷  宏  松山赤十字病院 中央放射線室
 三田 創吾  医建エンジニアリング株式会社
オブザーバー
 山口 一郎  国立保健医療科学院 生活環境部
 宋  寅傑  昭和大学横浜市北部病院 皮膚科




はじめに  古賀 佑彦 (医療放射線防護連絡協議会 会長)

 苦痛を軽減し、命を救い、延命し、あるいは機能回復のためなどを目的にして、実に様々な治療手段が使われてきた。その中でも外科手術は皮膚を切開して病巣に達するために、患者には大きな負担がかかるおそれがある。治療に伴う患者の侵襲をできるだけ軽減するためには、切開創をできるだけ小さくする工夫が行われてきた。内視鏡を使った手術もその一つである。診断でも同じであって、動脈撮影が始められた頃には皮膚を切開し、動脈を露出することが必要とされたが、経皮的な穿刺、カテーテル挿入による選択的血管撮影と進んで行った。さらに次の段階として、狭窄した血管の拡張、出血部位の止血、選択的な化学療法剤の投与、腫蕩の栄養血管の塞栓、ステントの挿入、シャント形成などの直接治療への応用へと広がって行った。このような経血管的な経路以外にも、胆道ドレナージのように透視下に穿刺して処置するなども行われるようになった。これらが InterventionaI Radiology (IVR) と呼ばれる手法である。

 IVRは超音波ガイド下におこなわれるものもあるが、心筋梗塞を起こした冠動脈の拡張に代表されるように、X線透視・撮影によるガイド下に直接の救命に直結する処置であることが多い。カテーテルの先端を目的の部位に誘導するためには、ときによっては透視が長時間に及ぶこともある。目的の部位が限られているために同一部位が照射され、しかも狭窄が再発したときにも同じアプローチがとられることが多いので、結果的にはX線入射部位に放射線の確定的影響を起こすほどの線量が照射されることも生じる。この手投が広く用いられるようになった1990年代にはすでに皮膚障害や脱毛などの影響が発生したことが報告され、1994年には米国のFDAがPTCA施行後に 背部の皮膚にできた放射線による潰療の衝撃的な映像とともにホームページ上で警告を発している。わが国でも日本医学放射線学会が1995年3月に放射線防護委員会の声明を発表し、学会総会で配布、学会誌に掲載、医療放射線防護連絡協議会のニューズレターにも掲載するなどの行動を起こしたが、それ以上の積極的な活動をしていなかったのが事実である。

 しかし、その後もIVRがますます広く用いられるようになってきたことから、皮膚障害の発生も増加してきた。IVRを施行している医師の放射線影響についての関心が少なかったときには、症状発現までに施行後に幾ばくかの潜伏期間があること、多くは背側の皮膚であること、患者への説明が十分で、なかったことなどから、患者が皮膚のかゆみや発赤を訴えて皮膚科を受診することが多く、まず皮膚科領域での症例報告が行われた。

 国際的にも米国の雑誌がIVRの皮膚障害についての特集号を掲載したことなどもあり、国際放射線防護委員会(ICRP)も第3専門委員会(医学における防護)でこの問題をとりあげた Publication 85 を、当時の日本委員であった中村仁信氏が中心になってまとめている。皮膚障害例が生じたことはメディアにも注目され、一部のテレビの特集としても報道された。本協議会では報道で問題になる以前からIVRによる障害の防止策についての検討を行ってきたが、2002年9月に関連学会を結集してIVRに伴う放射線皮膚障害とその防護対策検討会を立ち上げ、約2年間の活動の成果としてガイドラインと患者皮膚線量測定マニュアルをここに提供するに至ったものである。

 この検討会には本協議会の加盟学会だけでなく、この問題に関連する多くの学会の参加を得たし、またこれをきっかけにして協議会メンバーとして協力いただくことになった学会もあり大いに気を強くしている。このガイドラインと測定マニュアル、そしてQ&Aが有効に活用され、患者の障害発生をできるだけ低減させることができることを願っている。

 最近の RSNA News(6月号)をみると、interventional radiologist の白内障が問題 になってきていることが報告されている。白内障のしきい値は今まで考えられていたものよりも低い可能性があり、線量限度も引き下げるべきことを述べている。数年前にスペインから医師の水晶体混濁の数例が報告されたが、今回は59例中5例の白内障、22例に水晶体後嚢下の不透明部の出現を認めている。患者の被ぱくが確定的影響を起こすほど大きいときには、患者の傍に立つ作業者も相当量の散乱線を受けることになるのは自明のことであり、その対策も重要であることを改めて認識しなければならないことを示している

 平成16年7月28日




※ 掲載内容は「医療放射線防護連絡協議会」の承諾を得ています。

(掲載症例の一部) IVRによる放射線皮膚障害症例
1997年2-3月心カテ(PCI含)×3回
4月そう痒感とヒリヒリ感を伴う紅斑出現

1997年4月5日皮膚科初診
中背部のやや右側に11.5×8.0cmの長方形紅斑
当初は皮膚炎の診断としてステロイド外用治療

1997年4月9日
中背部の皮疹は紅色調が増してやや浮腫状となる
1997年4月17日
約2週間経過、中背部の皮疹は暗紅褐色調で表面平滑となり、症状軽快
1998年1月13日
背部の皮疹は皮膚萎縮と角化傾向を伴う淡紅褐色の紅斑となっている
1998年2月21日
中背部の皮疹は皮膚萎縮と角化傾向を伴う淡紅褐色の紅斑のまま

その後、放射線による急性皮膚炎と判明する。

中背部の皮疹は潰瘍形成に移行することはなかった。

※ 掲載内容は「医療放射線防護連絡協議会」の承諾を得ています。





序「放射線皮膚障害を防ぐために」  菊地 透 (医療放射線防護連絡協議会 総務理事)

19世紀末のX線の発見以降、医療における放射線利用は1世紀以上の長い実績と経験を有しており、医療機関において日常的に放射線診療が行われている。かつては知識が十分ではなく、20世紀前半までは放射線診療を受けた患者やその術者に、放射線皮膚障害(皮膚障害)の発症が散見していた。その後、近年の技術革新によりX線を用いた放射線診療は飛躍的な技術進歩を遂げ、X線の透視や撮影によって患者に皮膚障害が起きることは、過去の出来事と考えられていた。

 しかし、1990年頃からIVR手技の発展とその普及に伴い、長時間の透視と繰り返し行われたIVR手技によって、患者に皮膚障害の発症が懸念されるほどの高い被ばく線量を与えることが危惧されるようになった。そのため、患者の受ける被ばく線量の低減と皮膚障害の防止に関して、1994年に米国食品医薬品局(FDA)、1995年には日本医学放射線学会から警告が発せられた。また、世界保健機関や欧米の学会誌にも皮膚障害例とその防護対策が提言されるようになった。例えば米国誌(American Journal of Roentgenology 、2001年7月)では、過去10年間の文献検索と調査報告や法律上の記録を調査し、IVR手技により73症例の皮膚障害例の発生が確認されており、実際にはさらに多くの皮膚障害が起きている可能性を警告している。同様に、英国誌(The British Journal of Radiology 、2001年11月)では、1985年から1999年に実施した7824件のPTCAに対して、14症例の皮膚障害を報告している。

 皮膚障害はIVRの増加に伴い、どの国でも起こり得る問題であり、わが国でも皮膚科医師からPCI術後等のIVRに伴う患者の皮膚障害例が皮膚科関係雑誌にも報告されている。さらに、皮膚障害事例に関する訴訟や報道もあり、社会的な関心と患者の不安が高まっている。そのため、IVR等に伴う放射線皮膚障害とその防護対策の検討が急務であり、IVR手投を行う医療機関では適切な対策を講じておく必要がある。このような経緯から、医療放射線防護連絡協議会(協議会)加盟関連学会だけでなく、IVRに関係する日本循環器学会などや、皮膚障害の治療を直接担当する皮膚科医の加盟する日本皮膚科学会にも協力を呼びかけ、平成13年10月に「IVR等に伴う患者の放射線皮膚障害とその防護対策検討会」を設置した。現在は
表-1に示す13学会からの代表者と2団体からのオブザーパ協力を得ている。検討会の主査にはICRP委員として、ICRP Publ.85「Avoidance of Radiation Injuries from Medical Interventional Procedures」(2001年8月)の作成を担当した協議会の中村理事と、総務理事の小生が幹事として検討会のまとめ役を担当した。

 検討会では、関連学会および団体からのIVR等に伴う患者の放射線皮膚障害とその防護に関する情報交換と意見交流を行うとともに、医療関係者にIVR患者の放射線防護を徹底するための「IVRに伴う放射線皮膚障害の防止に関するガイドライン」と皮膚線量を把握するための「IVRにおける患者線量の測定マニュアル」を作成した。

 今回、このガイドラインと測定マニュアルを医療現場で有効に活用するために、具体的な内容を解説したブックレットを上梓した。作成ワーキンググループは、日本放射線技術学会防護分科会委員が担当し、粟井、水谷両氏がとりまとめた。また、宋氏の協力により、皮膚障害事例と治療方法を資料に示した。

 とくに最近、放射線診療に対して患者からの不安や相談が急増しており、安心して必要な放射線診療を受けることが重要である。IVRにおける放射線防護は、患者にとって有益なIVRを不当に制限することなく、放射線診療をより安全に安心して実施することである。そのため、可能な限り患者の受ける線量は必要最小限に低減し、不必要な被ばくを減少することが重要である。医療現場では、日頃からIVRにおいて放射線皮膚障害を発生させない環境を整え、万一障害が発生した場合においても的確に対応ができるような体制が大切である。また、IVR術者の眼の放射線障害も散見しており、医療従事者の被ばく防護も掲載した。

 最後にこのブックレットは、検討会設立時に「IVR皮膚障害の放射線防護セミナー:東京医科歯科大学歯学部特別講堂(2001年10月)」を、ガイドライン作成時に協議会の第17回フォーラムとして「IVRに伴う患者さんの放射線皮膚障害を防止するために:一ツ橋記念講堂(2003年9月)」を開催した。その際、検討会委員および講演者と参加者からいただいた貴重なご意見はブックレットの内容に取り入れている。ここに深く感謝すると共に、 多くのIVR関係者にとって放射線防護の必要性の理解と普及に役立つものになることを願っている。


表-1 IVR等に伴う放射線皮膚障害とその防護対策検討会

医療放射線防護連絡協議会
     (会長)古賀佑彦(藤田保健衛生大学 名誉教授)
     (主査)中村仁信(大阪大学大学院 医学系研究科医用制御工学講座)
     (幹事)菊地 透(協議会総務理事 自治医科大学 RIセンター)

日本医学放射線学会        石口恒男(愛知医科大学 放射線科)
日本医学物理学会         岩波 茂(北里大学 医療衛生学部)
日本画像医学会          宗近宏次(昭和大学医学部 放射線医学教室)
日本血管造影・IVR学会       竹田 賓(三重大学医学部 放射線医学講座)
日本歯科放射線学会        岡野友宏(昭和大学歯学部 歯科放射線学教室)
日本心血管インターペンション学会 石綿清雄(虎の門病院 循環器センター)
日本心血管カテーテル治療学会   延吉正清(小倉記念病院 院長)
日本循環器学会          山口 徹(虎の門病院 院長)
日本脳神経血管内治療学会     安陪等思(久留米大学医学部 放射線医学教室)
日本皮膚科学会          飯島正文(昭和大学医学部 皮膚科学教室)
日本放射線技術学会        粟井一夫(国立循環器病センター 放射線診療部)
日本放射線腫療学会        広川 裕(順天堂大学医学部 放射線医学講座)
日本保健物理学会         伴 信彦(大分看護科学大学 環境科学研究室)

オブザーパー

日本画像医療システム工業会
個人線量測定機関協議会




循環器撮影研究会循環器画像研究会循環器技術研究会循環器研究会循環器撮影技術学会心血管画像研究会循研CITEC

inserted by FC2 system